居酒屋のエンターテイメント性

ホテルやレストラン、あるいはサービスということにも全く無縁だった私が、ホテル、レストラン、レジャー産業と広い意味のサービス産業に携わるようになって、かれこれ30年近くの歳月がたちました。 私がこの産業に関心を持つようになったそもそものきっかけは、1964(昭和39)年、大学2年生の終わりに、カナダからアメリカにかけて3カ月にもわたる長い旅行をしたことでした。
一ドル360円の時代でしたから、行きは飛行機でも帰りは船という文字どおりの大旅行で、見るもの聞くものすべて新鮮で刺激的でした。 その中でも特に私が目を見張り、カルチャーショックを受けたのが、アメリカの数々の素晴らしいホテルやレストランだったのです。
今でも鮮明に覚えていますが、オレゴンのRというレストランのホスピタリティあふれるサービス、シアトルの展望回転レストラン・S。 サンフランシスコのSホテルの重厚で豪華絢燭な建物、今でいうところのファミリーレストランでしょうか、レッドルーフというコーヒーハウスのパンケーキのおいしさとあの楽しい雰囲気などなど。
一方、当時の日本ではホテル産業という言葉すらなく、ホテルやレストランは客商売、水商売というレベルでした。 しかし、アメリカの素晴らしいホテルやレストランに触れた私は、いつか日本にもそうした世界が実現すると確信し、大学を卒業すると同時に、アメリカのホテル・レストラン大学に2年間留学しました。
留学時代も含めて私がサービス産業にかかわるようになって30年。 この節目を迎え、私がこれまで提唱してきたホスピタリティのさて、今、私たちを取り巻く時代環境は、大きく変わろうとしています。
そのキーワードは心の時代といわれています。 急成長を遂げた日本のサービス産業も成熟期に至り、激しい競争の時代を迎えました。

こうした時代の転換期を迎え、21世紀を生き抜くにはホスピタリティこそが重要なカギを握っているのです。 メリカ西海岸のホテル・レストラン王、M氏の下で働きました。
そして帰国後は、都合4年ほどのアメリカ時代に学んだ、ホスピタリティをベースにした食文化の豊かさ、楽しさ、優しさなどの素晴らしさを日本のサービス産業にも普及しようと、教育・訓練を中心とした活動を今日まで続けてまいりました。 ホスピタリティとはホテル、レストラン業に限らず、広くサービス産業全般の原点になるものだと私は考えています。
ですから、ホテル、レストラン、レジャー産業などに限らず、広くサービス産業全般に携わる方々に読んでいただければ、これにすぎる喜びはありません。 大学ニ年生のときのカナダ・アメリカ旅行でアメリカのサービス産業の素晴らしさに触れた私は、日本の大学を卒業すると、迷わずニューヨーク州にあるP大学のホテル・レストラン経営学部に留学しました。
たまたま、同大学にホテル・レストラン経営学部があるのを知り、問い合わせたところ、当時は日本人の留学生など少なかったためか、早速入学許可が下りたのです。 私のサービス産業における原点の一つは、このニ年間の留学で培われました。
P大学は、ニューヨークといっても冬季オリンピックで知られたレイクプラシッドのさらに山奥にあり、キャンパスは、山手線の内側に匹敵するほどの広しかも、サラナック・レイクという湖のほとりにホテル・サラナックという約100室規模のホテルを大学が所有しています。 ホテル・レストラン経営学部では、このホテルでの27週間に及ぶ実習が義務づけられていました。
知識として学んだ体系や理論をここで、体験として、実践として身につけるという、理論と実践のバランスのとれた教育が行われていたのです。 大学のホテルのレストランで、バスボーイの実習をしていたある日のことでした。
バスポーイとは、お客さまのお水の注ぎ足し、灰皿の交換、次のお客さまのためのセッティング、お客さまの召し上がったものを下げるという専門職なのですが、教官からお水の注ぎ足しの基本ができていないと何回も注意されました。 そこで、授業が終わった後も一生懸命練習をし、翌日は「今日こそは完壁だ」と自信を持って実習に臨みました。
ところが、また注意されたのです。 昨日教えられたとおりの動作をしているのに、一体、何がいけないんだろう。
さっぱり理由がわからずキツネにつままれたような気分でいると、今度は次のように指摘されたのです。 「わからないかい。
確かに君の動作、形は完壁で、優秀なバスボーイには違いない。 でも、そこにどうぞおいしいお水をお召し上がりくださいという気持ちを込めてお水を注いでいるかい。

全く気持ちがこもっていないだろう。 私たちのサービスという仕事は心、気持ちを込めてやらないと、とても寂しいものになってしまうんだよ」と。
この一言で、私は初めて、サービスの何たるかに気が付きました。 サービスにおけるホスピタリティの重要性を認識させられたのです。
サービス産業とは、人を中心としたビジネスです。 そこで働く人々の心のありかたや気持ちの持ち方次第ですべてが決まるのです。
しかも、心や気持ちを込めた仕事は機械やロボットには決してできない、人間だけができることなのです。 逆に言えば、心や気持ちを込めない仕事はサービスではなく、単なる作業にすぎないのです。
私はそれ以降、物事をまず心、気持ちで受け止め、心、気持ち、思いやりを込めて行動することに努力してきました。 こんな重要なことを気付かせてくれたP大学での2年間は非常に意義深いものでした。

こうした留学時代の体験とともに、私のもう一つの原点ともいうべき出来事は、アメリカ西海岸のホテル・レストラン王、M氏との出会いでした。 彼は人間としても、また実業家としても大変立派な方で、私の会社名にもお名前を頂いてしました。
まず、ポット・ウォッシャー(コックが使った鍋釜を一日8〜10時間、ひたすら洗う仕事です)から始め、その後バーテンダー、ウエイター、コックの仕事を経験し、ところで、現在の日本の社会を振り返ってみると、どうでしょうか。 すべてが物質的、技術的、経済優先で、日本人が本来大切にしてきた心の美しさ、優しさがなくなってきてはいないでしょうか。
業態の異なったレストランのマネジャーの仕事も体験し、最後は由緒あるリゾートホテルの総支配人代行まで経験させていただきました。 大学で学んだ知識を今度は本当の体験、実践で裏付けたのです。
彼からはサービスする喜びや楽しさ、この仕事を通じて自分自身の人間性をもっと高めていくことなど、実にさまざまなことを教えていただきました。 留学時代、そしてM氏の下で働いていた時代と、アメリカでの体験は本当に有意義で例えば、ボランティア活動ひとつとっても、国民性や社会の成り立ちの違いがあるとはいえ、欧米諸国に比べて遅れています。
心や気持ちといった精神面では非常に貧しい国になっているのです。 しかも、こうした傾向は、何よりも心や気持ちを大切にしなければならないはずのサービス産業にまで及んでいるのではないでしょうか。
つまり、サービスの原点であるホスピタリティ、わかりやすく言い換えれば、思いやり、心遣い、親切心、心からのおもてなしがおろそかにされ、見失われがちになっているのです。

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